シリーズ~祈りと暮らし~①ラバンのマリア様(ベトナム)

日本は新型コロナウイルス感染拡大を受けた緊急事態宣言がいつ全面解除されるのかが関心事になっていますが、ベトナムでは感染者数が0の日が続くようになりました(参考1:Vietjo)。飲食店は全面的に休業が強いられていましたが、都市によってはテーブルの間隔を空けることや消毒薬の準備、お客様の人数制限などを守れば営業を再開できるようになってきました。日本も早く通常の社会生活が戻って来ることを願っています。

ラバンのマリア様の横顔、ベトナム

ラバンのマリア様の横顔(2017年3月撮影)。

ベトナムでがんばってくれているナショナルスタッフのティエンさんと相談して、「祈りと暮らし」というシリーズを始めることにしました。こういう時なので、心静かに神様に祈りたい方も多いのではないかと思います。風人土(かぜひとつち)学舎は特定の宗教を支持していません。暮らしの中にある信仰や祈りの姿を知って頂くことで、穏やかな気持ちになって頂きたいと思っています。今回は、カトリック信者であるティエンさんにベトナムで実際にマリア様が現れたと信じられている「ラバンのマリア様」(越語:Đức Mẹ La Vang)のことを書いてもらいました。

統計によると、ベトナムの人口の 14.91% は仏教徒、 7.35%はキリスト教徒(カトリック)、1.09%はプロテスタントの信者となっています(参考2:U.S.Embassy & Consulate in Vietnam, 2017)。また、ベトナム人の宗教観は日本人に近いように感じます。お寺に行くかと思えば、クリスマスは大騒ぎです。木などの自然には精霊が宿っていると考えていますし、かまどの神様といった古くからの風習として信じられている神様もいます(関連記事:『【ベトナム・フエの様子】テト(旧正月)の前に~かまどの神様~』)。

ラバンのマリア様、ベトナム

ラバンのマリア様像。ラバンのマリア様の伝説には薬草の木が出て来るため、マリア像の後ろにはコンクリートで作られた大きな三本の木が立てられている。
この像の隣には礼拝堂があり、私たちが訪れた時は賛美歌が聞こえていた。像の足元にはシスターの姿。訪れた人から送られた多くの花も飾られていた(2017年3月撮影)。

 

ベトナムの王朝と言えば、1802年から1945年にかけてのグエン朝(越語:Nhà Nguyễn)のことがよく知られています。このグエン朝が成立する前、ベトナムが中国の清朝に支配されていた頃に大飢饉が起こり、それを機に大きな争いが起こりました。この大きな争いで中国の清朝とシャム(現在のタイ)を破ったのが、ベトナムの英雄の一人であるグエン・フエ(越語:Nguyễn Huệ )です。彼が起こした西山朝(越語:Nhà Tây Sơn)は、1778年から約30年間続きました。「ラバンのマリア様」が現れたとされるのは、この西山朝時代のことです。

 

旧ラバン教会、ベトナム

フランス領インドシナ時代の1901年、煉瓦建てのラバン教会が建設されて人々の信仰を集めていた。その後、フランスそしてアメリカとの間で戦われたベトナム戦争時の1972年に攻撃された。現在残る姿から戦闘の激しさを私たちに伝えてくれている(2016年12月)。

 

新たなラバン教会、ベトナム

カトリック教徒にとって聖母出現は特別な意味があるため、多くの寄付が世界中から集まった。奥に見えるの建設中の新しいラバン教会。右側は、戦闘によって被害を受けた旧ラバン教会(2017年12月撮影)。

1798年8月17日、グエン・フエの次男であった景盛帝(越語:Cảnh Thịnh hoàng đế)はカトリックの信仰を禁止しました。この禁止令を受けて、信者たちは激しく迫害されるようになりました。 多くのカトリック信者は、フエ省のお隣にあるクアンチ省(越語:Tỉnh Quảng Trị )周辺のジャングルの中に逃れられる場所を求めました。そして、多くの人が重い病気になりました。 毎日夜になると、カトリック信者たちは集まってロザリオを唱えてお互いをいたわりあいました。そんなある夜、聖母マリア様が現れました。マリア様は彼らを慰め、病気を治療するために木から葉を取り、その葉を煎じるように彼らに言いました。また、マリア様は「これより以降、この場所で唱える全ての祈りは聞き届けられ、願いは叶えられます」と約束もしました。この病気を治療した葉はラバン(越語:Lá Vằng)の木から取られたものだったので、聖母出現の場所にはラバンという名前が付けられました。現在でもこの伝説は信じられており、ベトナム全国を始め世界中のキリスト教徒が、毎年8月15日頃、ラバンのマリア様が現れた場所を聖地として巡礼に訪れます。聖地の周辺には、願いが叶った感謝の石碑が沢山置かれています。

ベトナムのキリスト教徒は、世界でも聖母マリア様が現れた場所は少ない中でラバンにマリア様が現れたことについて、ラバンだけでなくベトナム全土が神様からの恩恵が注がれた象徴なのだと考えています。ラバンは聖地であり、慰められる場所であり勇気づけられる場所と確認しているので、誰でも一度は礼拝に行く場所とも考えています。

このマリア像は、フエ市にあるフーカム大教会(越語:Nhà thờ chính tòa Phủ Cam)、フエ師範大学の校舎、ホーチミン市の統一会堂、中部高原にあるダラット市のダーラット市場などをデザインしたフエ出身の建築家、ゴ・ビエット・トゥ(越語:Ngô Viết Thụ)氏のものです。

☆日本事務局・高木より補足☆ 私も3回ほど、ラバンのマリア様のところに足を運んだことあります。マリア像の足元には、供えられたお花に交じって蓋を開けたペットボトルが何本も置かれていました。このペットボトルの様子は、ベトナムのお寺でも見かけたことがありました。お参りに来た人が祈りを捧げている間にペットボトルの蓋を開けておくことで、中の水に神様からの恩恵や力が写ることを期待しているのです。そして、再び蓋を閉じられたペットボトルは参拝者の地元に持ち帰られ、彼らの帰宅を待っている人たちに渡されます。病気の治癒、家族の幸福と繁栄、子宝に恵まれることなどを期待する人たちが、ありがたくこのペットボトルのお水を飲むようです。

[参考]
参考1:『新型コロナ、ベトナムは8日連続で新規感染者ゼロ―44人が治療中』https://www.viet-jo.com/news/social/200424131228.html(Vietjo,2020年4月24日)
参考2:https://vn.usembassy.gov/vi/bao-cao-tu-do-ton-giao-quoc-te-2017/ (U.S.Embassy & Consulate in Vietnam, 2017)

投稿者プロフィール

Team Hue
Team Hue
チーム フエは、ベトナム中部のフエ市在住歴約6年の高木佳子とフエ市生まれのフィン・ティ・トゥイ・ティエン、そしてフエで暮らす高校生や大学生たちで構成されています。フエ市のことやベトナム人の暮らしの様子を写真や動画を添えて発信していきます。ご質問や「こんなことが知りたい!」というリクエストも受け付けております。