【食べ物から考える(2)】タンザニアの田舎のお昼ごはん - 田中樹 -

アフリカでのフィールド調査に出ていると言うと、「滞在中、何を食べているの?」とよく聞かれます。「そうだね、お米を食べてるよ」と答えると、意外そうな顔をされることがあります。

稲は世界中で栽培されてる作物です。西アフリカのごく一部ではオリザ・グラベリマというアフリカ起源の稲が栽培されていますが、ほとんどはアジア起源のオリザ・サティバです。今回の話題の舞台であるタンザニアでもお米をよく食べます。大陸部では、大きな水田地帯が幾つもあり、人びとは産地名をあげて「●●産のコメはとても美味い」などと言います。主食として日常的によく食べられているのは、ウガリと呼ばれるメイズ(トウモロコシ)粉の練り粥で、お米はどちらかというとご馳走です。島嶼部のザンジバルは、もともと中東オマーンの統治下にあったため、少し事情が異なり、外食だけではなく家庭でもお米をよく食べます。

タンザニア・ウルグル山域の村の食堂

写真1.タンザニア・ウルグル山域の村の食堂

山の村の食堂のお昼ごはん

写真2.山の村の食堂のお昼ごはん

 

写真1は、大陸部の東に位置するウルグル山域の山村の食堂の内部です。そこで出されるお昼ご飯(写真2)は、ごはん、キャベツの細切りのトマト炒め、牛肉と苦ナスのトマト煮です。ごはんは、山の斜面で栽培される陸稲(オカボ)です。キャベツ、トマト、牛肉、苦ナスは、域内でとれたもの。味付けに使われるタマネギや塩は、町から買ってきます。ほとんど地産地消です。ウルグル山域では、たくさんの種類のイモをよく食べます。それは、ジャガイモ、サツマイモ、タロイモ、キャッサバなど。イモではありませんが、でんぷん質の食材としては、パンの実や食用バナナもあります。村人にとっては、お米のごはんは、特別な日やめったにない外食をしたときに食べることのできるご馳走です。

タンザニア島嶼部ザンジバルの海辺の村

写真3.タンザニア島嶼部ザンジバルの海辺の村

海辺の村のお昼ごはん、タンザニア

写真4.海辺の村のお昼ごはん

 

写真3は、島嶼部ザンジバルの海辺の村です。ザンジバルは、「スパイスの島」とも呼ばれるクローブの世界的産地です。他にも、コショウ、カルダモン、シナモンなどが栽培されてます。食堂で人気なのは、少々値段は高いのですが、ピラウと呼ばれるスパイスの効いた炊き込みご飯です(写真4)。丸ごとの香辛料に塩、タマネギ、トマトを加えた炊き込みご飯。ちょっと贅沢に、揚げた魚(たぶんカツオかサワラ)がのっていることもあります。このお皿に少量のっかている赤いものは、カチュンバリと呼ばれるサラダで、トマトやタマネギなどを切ったものにライムと塩とトウガラシが混ぜてあります。丸ごとの香辛料は、そのまま気にせず食べる人、皿の脇にのける人、好みによって様々です。このお昼ごはんの材料のうち、地域でとれたものは香辛料とトウガラシ、ライム、魚です。トマトとタマネギの多くは大陸部から運ばれてきます。ザンジバルにはお米を自給できるほどの水田はなく、多くは大陸部から買い付けてきます。時折、タイやベトナム、インドから輸入したお米も見かけます。インド洋地域の交易圏だったころの名残りなのでしょうね。

ラマダン、フタリ、タンザニア

写真5.日が暮れたらお待ちかねの夕食。「フタリ」と言います。

今年(2020年)は、4月23日からイスラームの断食月(ラマダン)です。9割以上がイスラーム教徒であるザンジバルでは、日中は水や食べ物を口にできませんが、日没とともに「フタリ」と呼ばれる夕食を楽しみます(写真5)。新型コロナウイルスの蔓延で、落ち着かない日々が続きますが、健康に美味しく過ごせることを祈っています。

タンザニアの田舎のお昼ごはんを思い出し、ごく当たり前の日常の暮らしがとても大切に思えるこの頃です。

投稿者プロフィール

田中 樹
田中 樹風人土学舎 代表
風人土学舎代表。摂南大学 農学部 食農ビジネス学科 教授(環境農学研究室)、ベトナム・フエ大学名誉教授。専門は、環境農学、土壌学、地域開発論。アフリカやアジアの在来知に学び、人びとの暮らしと資源・生態環境の保全が両立するような技術や生業を創り出す研究に取り組んでいます。