シリーズ~祈りと暮らし~③お祈りと内職(ベトナム)

前回のこのシリーズの記事(シリーズ~祈りと暮らし~②お祈りの日のお供え(ベトナム))で、ベトナムのフエ市でよく見かけるお祈りの時のお供えの様子を紹介しました。

新月前のお供えの様子、フエ市郊外

先祖や神様に対するお供え物の様子。食べ物や果物、紙細工が並べられる(2020年2月、フエ市郊外にて撮影)。

上の写真で机の奥の方に写っているのは紙でできた靴、手前右側に積まれているのはお札に見立てた紙です。どちらも、亡くなったご先祖様たちがあの世で歩くのに困らないように、お金に困らないようにとお供えされます。お祈りが済んだ後、これら紙のお供えものは燃やします。「天にいるご先祖様に届きますように」という祈りを込めて燃やしてしまうのです。

このようなお祈りのためのお供えは、新月と満月の日に準備されます。また、このような紙細工は仏教徒の葬式や日本的に言うと法要の際にも祭壇に飾られ、みんなでお祈りが済んだ後に同じように天まで届けと燃やされます。お葬式の後は、ご遺体をお墓まで運ぶ車から紙細工のお金を撒いたりもします。いずれにしても、2度は使わないものなので、毎回買い替えることになります。

多くの家で、新月と満月、つまり月に2回はこういった紙細工をお祈りのために購入するのですから、それなりの商売が成り立っています。完成した紙細工は、市内の雑貨店のようなお店の軒に吊るされて売られています。市場でも買えますし、フエ市の下町、特にチー・ラン(越語:Chi Lăng)通りには、紙細工のお供えだけを売っているお店もあります。では、誰が紙を靴に組み立てたり、お金の束に折ったりしているのでしょうか?お供え用紙細工の卸し屋さんから、貧しい家や家で働きたい人たちのいる家に内職として材料が配られています。作業が終わったころに、また卸し屋さんが出来上がったものを回収にやって来てお金を支払ってくれます。こういった内職のことを「紙折り」と呼んでいます。

紙折りの内職、ベトナム・フエ市

お供えに使われるお金を模した紙。写真は卸や屋さんが置いて行った材料の紙。これを折って、お供えに使える状態にする(2016年11月撮影)。

私たちの学習支援クラスで学んでいる高校生たちのお母さんたちの中にも、「紙折り」の内職をしている人たちが何人もいます。また、高校生自身も、夏休みに家で出来るアルバイトとしてやっていた子もいました。がんばれば、1日約50,000ベトナムドン(237円、※レートは全て参考1の通り)程度稼ぐことが出来るようです。お母さんたちが主になってお父さんや、時々子どもたちも手伝うというように一家で「紙折り」をしている家もあります。月にすると、1,000,000~1,500,000ベトナムドン(約4,735~7,102円)が稼げるようです(参考2)。

この金額が社会の中でどの程度の収入にあたるのか、です。ベトナムの大卒初任給は、約28,000円(参考3)なので、これだけでは家族が食べていける金額にならないことを想像頂けるかと思います。フエ市に暮らす人たちが信心深くお祈りをしている限り、この内職はなくならないかな、と思っています。こういった「小さな仕事」が庶民の暮らしを支えています。

 

[ 参考 ]
1.1円=211.21ベトナムドン(2020年5月14日、Vietcom Bank のホームページ参照)
2.2016年現地調査、2019年学習支援クラス活動における奨学金支給時の聞き取り結果より
3.「ベトナムの大卒初任給、月250ドルから」(2019年3月8日、アジア経済ニュース)

投稿者プロフィール

Team Hue
チーム フエは、ベトナム中部のフエ市在住歴約6年の高木佳子とフエ市生まれのフィン・ティ・トゥイ・ティエン、そしてフエで暮らす高校生や大学生たちで構成されています。フエ市のことやベトナム人の暮らしの様子を写真や動画を添えて発信していきます。ご質問や「こんなことが知りたい!」というリクエストも受け付けております。