ザンジバルのサンゴ石灰岩と不思議なイモ畑 - 田中樹 -
タンザニアのザンジバルの話題は幾つもあるのですが、今回はサンゴ石灰岩と不思議なイモ畑の話です。
東アフリカ・タンザニアの島嶼部であるザンジバル(写真1)は、浅い海底(あるいは小島の周囲)にできたサンゴ礁が隆起して島になり、またその周囲にサンゴ礁ができて、さらに隆起して・・・を何度か繰り返してできました。海岸から中央部に向かって島内を移動すると、時折、低い崖が現れ、そこではサンゴ石灰岩の露頭(岩石や地層が露出したところ)がみられます(写真2)。
島内には、幾つかの鍾乳洞(写真3)があり、島の地質が石灰質であることが分かります。
島内の川や湿地の水は地下に吸い込まれてしまうので、河口を持つ河川がほとんどありません。たぶん、地下に鍾乳洞のような空間があり、そこに流れ込んだ水は地下河川となり、沿岸部で海底湧水になっているのでしょう。海底湧水がマングローブや海藻やプランクトン、それを棲み処や餌にする小魚・エビ・カニなどを育んでいるのでしょう。水を介して陸域と沿岸域をむすぶ豊かな生態系があります。
島内にあるサンゴ石灰岩は、掘り出されて建築材料になります(写真4)。迷路のように細い路地が交差するストーンタウン(世界文化遺産です)の建物(写真5、6)や村落の民家などの壁材としてよく見かけます。街の市場近くでは、サンゴ石灰岩を売っている店があります。建物の壁に白く塗られている漆喰もサンゴ石灰岩を焼いて作られます。昔々に海の中で様々な生き物を育んできたサンゴ礁が、今は、建物の材料として人びとの暮らしや文化を育んでいます。
ザンジバルを構成するのはベンパ島とウングジャ島の2つです。ストーンタウンがあり、人口が多く経済活動が活発なのはウングジャ島で、トルコやカタール、UAE、オマーン、エチオピア、ケニアなどからの直行便が乗り入れる国際空港があります。タンザニア本土からは小型飛行機で15分、フェリーで数時間です。
そのウングジャ島の南部には、サンゴ石灰岩が地表に露出した土地があります(写真7)。土に覆われていない荒れ地のようにも見えます。近づいていくと、作物が植わっています。キャッサバです(写真8)。土が無いのに作物?何だか不思議。でも、ちょっとだけその土地を掘ってみると何故そうなのかが分かります。
サンゴ石灰岩は、複雑な形をしていて、その中には空洞が沢山あります。土はその空洞を埋めるように詰まっています。また、その空洞に底があれば、浸み込んだ雨水が地中深くに抜けることなく留まります。つまり、複雑な形をした無数の植木鉢が埋まっていると思えば、作物が育つのは当たり前なのです。そもそも、そこにはもともと灌木が生えていますし(もう少し立派な林だったようですが、沿岸域で獲れる小魚を煮干しに加工するための薪として伐採されたようです)。とはいえ、キャッサバの芋(写真9)やヤムイモ(写真10)は、素直に伸びることができず、それなりに短かったり曲がったりはしています。
余談ですが、ザンジバルでヤムイモは何故か「イモヤマ」と呼ばれています。昔々、島を訪れた日本人が教えたとか教えてないとか。ヤムイモは、断食月(ラマダン)の日没後の夕食(フタリ)では欠かせない食材です。断食で縮まった胃袋に負担をかけないため、まず軟らかく煮たヤムイモを食べ、それからご馳走タイムになります。断食月が明けるとヤムイモは二束三文の値段になるので、来年まで畑に放っておかれます。それらは、歪な形のままさらに大きく育つのでしょう。
サンゴ石灰岩や人びとの暮らしやイモ畑、これらの不思議なつながりを考え始めるととても楽しくなります。
投稿者プロフィール
- 風人土学舎代表。摂南大学 農学部 食農ビジネス学科 教授(環境農学研究室)、ベトナム・フエ大学名誉教授。専門は、環境農学、土壌学、地域開発論。アフリカやアジアの在来知に学び、人びとの暮らしと資源・生態環境の保全が両立するような技術や生業を創り出す研究に取り組んでいます。
最新の投稿
- ブログ2021-02-012021年に向けて~ベトナムの旧正月を目の前にして~
- ブログ2020-10-13道端の小商い(2):アフリカの旅の途上で
- ブログ2020-10-02お墓のまえで(2)
- ブログ2020-09-29お墓のまえで(1)