【食べ物から考える(3)】ラオス・ベトナム国境の焼き畑の村で- 田中樹 -

陸路でベトナム中部のフエからラオバオという国境の町を越えラオス中部のセポンに行きました。その近郊には、山岳少数民族の村々があります。人びとは、焼き畑で陸稲(オカボ)やトウモロコシ、キャッサバを栽培し、山野での山菜の採集や罠猟でネズミや野鳥などの捕獲、河での漁労などをして暮らしています。収入源は、ウシや水牛(めったに売らない)、ヤギ、在来ブタ、ニワトリなどの多様な家畜と余剰のコメです。中国やベトナムの資本に買われた土地でのユーカリ林、アカシア林、ゴム園、バナナ園で賃労働をする人もいます。

ここに住まう山岳少数民族の生業(なりわい)や生態環境の変容と衛生状態の変化についての研究に誘われ、この村に入ったのは‎2017‎年‎7‎月下旬。折しも、台風の直撃を受け、息ができないと思えるほど濃密な降雨にさらされ、舗装されていない道はぬかるみ、風で倒れた木々をよけながら調査村に通う日々でした。余談ですが、フィリピン東方で発生した台風は、中国大陸や日本列島に向かうと思われていますが、半分は西に向かいベトナムを横切ってラオスやカンボジアに抜けます(テレビの天気予報図ではカバーしていないので気が付かないのです)。

ラオス、増水した河の渡し舟

写真1.増水した河の渡し舟

ラオス、木と竹で造られた高床式の家屋

写真2.木と竹で造られた高床式の家屋

増水し赤く濁った河川をトタン張りの小さな舟(写真1)で渡り、川岸を登ると目指す村。家々は、木や竹でできていて、高床式になっています(写真2)。

ラオス、焼き畑で栽培される陸稲(オカボ)

写真3.焼き畑で栽培される陸稲(オカボ)

居住区の周りには焼き畑が広がっています(写真3)。作付けされている陸稲(オカボ)はモチ米です。2回収穫したら(つまり2年経ったら)、別の土地の雑木林を刈り払い火入れをして新たな焼き畑をひらきます。利用する土地の位置を変えながら、2年間の耕作と8年間の放置を繰り返します。村人からの聞き取りでは、一年間に大人ひとりが消費するコメは200kgくらいとのこと(参考までに、日本人一人当たりのコメ消費量は、1960年代に100kgを越えるくらいでしたが、現在は50kg台です)。

ラオス、山菜は山の恵み

写真4.山菜は山の恵み

ラオス、放し飼いされる在来ブタ

写真5.放し飼いされる在来ブタ

村の人びとは、野山で穫れる山菜(写真4)やキノコ、川魚、時々罠にかかる小動物の肉などをおかずに蒸したモチ米を食べます。塩で味付けをします。在来ブタ(写真5)やニワトリを食べることは、お祝い事などの機会でなければ滅多にないそうです。「もうちょっと工夫したら、家畜を殖やして肉や卵をもっと食べられるのでは?」と聞くと、「えへへ、それは分かっているけどさ、畑の草取りなどでけっこう忙しいしね」とのこと(言葉がわからないので通訳を介しての意訳です)。

不躾かなと思いつつ、年収を聞いてみたら「知らん」とのこと。聞き方を変えて、「それぞれの家畜の値段は?」と「一年にどの家畜を何頭売るの?」を組み合わせると、けっこう簡単に推定できるのですけど。ざっくりと1世帯当たり20~30万円くらいでした。2015年~2019年の一人当たりGDPの平均が25万円くらいで、これは収入の多い都市部の人びとを含むため、田舎暮らしで主食のコメを自給できていて年収20~30万円ならば、余裕ある暮らしなのかな(医療費や教育費は別にして)。ニワトリや豚(特にオスの子豚)を市場で売ったときに、肉や調味料を買い込んでくるんだろうし。

ラオス、調査の合間のお昼ごはん

写真6.調査の合間のお昼ごはん

さて、私たちは村人から提供されるお昼ごはんを期待していたのですが、雨季は河が増水して魚が散ってしまい、小動物も獲れるかどうか約束できないし、山菜なんて口に合うかわからないし、とあれこれ言い訳されて実現しませんでした。確かに、雨季の間は、魚や小動物が手に入りにくく、それ以外の季節は意外と食材の種類や量が豊富なのかも知れません。一度だけ、キノコと菜っ葉(カラシナのような味)の塩炒めを頂きました。とても美味しかったのですが、この季節、村人にとってもご馳走なので、毎日用意してくださいとも言えず、結局、宿のある町の市場で肉や魚を揚げたものやカラシナの漬物、蒸したモチ米を買って持参しました(写真6)。

蒸したモチ米の甘い味を感じながら、いっとき、焼き畑の村の暮らしや未来の姿を想像するのもフィールド調査の楽しみの一つです。

投稿者プロフィール

田中 樹
田中 樹風人土学舎 代表
風人土学舎代表。摂南大学 農学部 食農ビジネス学科 教授(環境農学研究室)、ベトナム・フエ大学名誉教授。専門は、環境農学、土壌学、地域開発論。アフリカやアジアの在来知に学び、人びとの暮らしと資源・生態環境の保全が両立するような技術や生業を創り出す研究に取り組んでいます。