【食べ物から考える(1)】南インドのミールス - 田中樹 -

南インド、ミールス

写真1.南インドの定食屋でいただくミールス

日本国内でも海外でも、「食べ物」をいただくことはその土地を感じる機会の一つです。
アフリカやアジアで出会った食べ物とその時に感じたことを、不定期ではありますが、紹介したいと思います。

 

今回は、南インドの「ミールス」です。そして、メッセージは、「南インドの食べ物は地球を救うかも」です。

 

インド料理に詳しい方は、「ターリー」をご存知だと思います。いろんな種類のカレーや野菜のおかず、ヨーグルト、ごはんやナンが大きなお皿にのって出てくる定食です。菜食(ヴェジ)と非菜食(ノンヴェジ)があります。

南インドにも同じようなものがあり、「ミールス」と呼ばれます。新鮮なバナナの葉を広げ、コップの水をかけて表面をさっと洗い流してから、ダール(豆のカレー)、幾つかの野菜のカレー、野菜の炒め物、酸乳(酸味はしますがヨーグルトほどねっとりはしていない)、炊いたごはん(時には小麦粉を練って薄焼きしたチャパティや油で揚げたロティ)、パパダン(豆の粉を水に溶き薄く延ばして揚げたもの)などがのっています(上の写真1と下の写真2)。

 

南インド 食べ物 地球を救う

写真2.地球に優しい(?)南インドの食べ物

手で食べます。指の第二関節までをうまく使い、カレーとごはんを混ぜ、親指の先(爪のある方)でポンとはじくように口の中に入れます。その様子はとても優雅で、楽しそうにも見えます。

 

食堂のスタッフ(多くは少年たち)が、眼光鋭くバナナのお皿を観察し、ダールやごはんが少なくなると見るや素早く容赦なく追加してくれます。岩手県のわんこそばのようです。野菜のカレーなどは追加してくれません。とにかく満腹になるまで、「もうお腹いっぱいだよ」、「いやいや、もっと食べなよ」という攻防が続きます。どれだけ食べてもお値段は同じ。最後に、酸乳をごはんにまぜて香辛料の複雑な味でいっぱいになったお口をさっぱりさせます。バナナの葉を手前側に折って食事はおしまい。

 

さて、何故、「南インドの食べ物は地球を救うかも」か?

 

まず、食器を見てみましょう。使われているのはステンレスの器や皿。使い捨てのプラスチックなんてありません。洗って何度でも使えます。そしてバナナの葉。家の周りや畑にいくらでもあり、使い終わったら土に還ります(そのまえにヤギがもぐもぐすることも)。それと、使われている食材。この土地で栽培できない香辛料(クローブやカルダモン、コショウなど)はちょっと遠くから運ばれてくるものの、豆(レンズ豆やひよこ豆など)、野菜(インゲン豆、カリフラワー、オクラ、ナスなど季節によって様々)、米、牛乳、味を調えるトマトやタマネギ、食用油、幾つかの香辛料(ショウガ、ウコン、ニンニク、クミン、マスタードシードなど)は、おそらく、近くの田んぼや畑、草地で得られたもの。「フードマイレージ(生産地から消費地まで食材が運ばれるまでにどれだけの燃料や二酸化炭素の排出量がかかるかを数値化したもの)」がとても小さいのです。地産地消とも言いますね。

ところで、お肉のない食事は物足りないか?そうでもないですよ。これは結構大切な質問と回答。ごはんは理屈っぽく食べるものではないので、それなりに美味しく満足感がなければね。南インドのミールスは、味わい深く、種類も多く満足できること請け合いです。非菜食(ノンヴェジ)のミールスも、お肉(鶏肉、マトンなど)や卵を使いますが、お肉でお腹をいっぱいにする食べ方ではないので、土地への負荷の大きい飼料穀物の消費も少なくて済みます。少なくとも、フードマイルや環境負荷の大きい肉や炭水化物や油が主体の食べ物(いろいろありますね)を飽食するよりも、健康にいいかも知れません。

日本の食文化にどう馴染むかはさておき、南インドのミールス、私のイチオシの「地球未来食」です。

投稿者プロフィール

田中 樹
田中 樹風人土学舎 代表
風人土学舎代表。摂南大学 農学部 食農ビジネス学科 教授(環境農学研究室)、ベトナム・フエ大学名誉教授。専門は、環境農学、土壌学、地域開発論。アフリカやアジアの在来知に学び、人びとの暮らしと資源・生態環境の保全が両立するような技術や生業を創り出す研究に取り組んでいます。