知りたいのは人々の思いや暮らし①

2020年11月11日。またフエは大雨で洪水になっています。私の知っている人たちが安全に過ごせることを祈っています。

話は変わり、修士論文のための調査をしていた時の話です。ベトナムで外国人が調査を行う場合、調査地にある人民委員会に届け出が必要です。人民委員会とは、日本でいうとお役所。私の調査地は丘陵地にある少数民族の集落であったため、人民員会と日本の警察にあたる公安にも届けを出して調査許可を取る必要がありました。なんだか厳めしいように思われるかもしれませんが、日本的に言うと自治会長さんのような人を紹介してくれたり、農林業のデータを公開してくれたり、村の歴史を説明してくれたり、親切にしてもらいました。

 

 

陸稲・フエ省・ベトナム

調査で通わせて頂いたカオさんの家の畑。陸稲とバナナ、ザボンの木。この他にキャッサバやサツマイモ、葉物野菜を自家たちで食べるように栽培していた(2017月9日撮影)。

 

調査地がどんな変遷を経て現在に至っているのかは大変に興味があることでした。ただ、人民委員会で伺える話では人々の暮らしが見えて来ないので、集落に暮らすお年寄りたちに話を聞かせてもらうことにしました。

 

カオさんの家、フエ省・ベトナム

 

カオさんは初代の村長さんだった人で集落の色々なことに詳しい人でした。何度かお家にお邪魔したこともあったので「人民委員会の許可も取ったので集落の歴史を聞かせてください」という私の要望にもすぐに応えてもらえると思っていました。しかし、「集落の歴史を聞かせてください」とベトナム人調査協力者と二人でカオさんを訪問した時の彼に「歴史のことは人民委員会に聞いてくれ。人民委員会と同じ話しか出来ない」と、ぴしゃっと言われてしまいました。彼の口調があまりにも強く厳しいものだったので理由があるに違いないと調査協力者と二人で粘ったところ、カオさんはこんなことを話始めました。

 

「以前に欧米のある国の研究者が、村の歴史を教えて欲しいと人民委員会の紹介で訪ねてきたことがあった。色々と話をして楽しい意見交換をしたと思っていた。でも後になって、その研究者が話した内容の部分部分をつぎはぎしてベトナム政府を批判をする文章を書いていたことが分かった。だから同じようなことになるのはいやだ」

 

国の違い、文化の違い、政治体制の違い、人種の違い、、、人は違っていることを批判したり、意見したくなることがあります。私もベトナムの社会のしくみについて疑問を持つことや不思議に思うことがないと言えばうそになります。ただ、声高に批判したり、意見したりする気はありません。私たちはアウトサイダーであり、あれこれ言う立場にないと思っています。そんなことよりもむしろ、共通のことや素敵な点を見つけて歓心したいと思っています。

 

カオさんには、「歴史という言い方が悪かったのかもしれない。私が教えて欲しいのは、カオさんが20歳の時にどんな暮らしをしていたのかというようなこと。どんな風に焼き畑農業をしていたのか、水牛を飼っていたのか、神様にお祈りしていたのか、どんな家を建てて住んでいたのかとか・・」と具体的に言葉にしていきました。カオさんは、「そういうことが聞きたかったのか。だったら、時間がかかりそうだけれどいつでも来てくれらたいい」と言ってくれたのでした。

 

カオさんと調査協力者と、フエ省・ベトナム

写真中央奥の白いシャツを着ているのがカオさん。その右が調査協力者のドゥックさん。ドゥックさんの左手に乗っているのは、キャッサバを蒸したもの。カオさんの奥さんが準備してくれていた。この写真を撮影した日は村の人たちがどういう風に大家族でつながっているのか聞くために訪問したのでパソコンを持ち込んでの調査だった。(2017年9月撮影)。

カオさんに必死で食い下がった時、「そうだ私は『人の暮らしのこと』が知りたいのだ」と自分が知りたかったことにも気づけたのでした。この話は続きます。

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投稿者プロフィール

高木佳子(Takagi Yoshiko)
高木佳子(Takagi Yoshiko)風人土学舎 日本事務局担当
ベトナムのフエ市在住歴延べ6年。風人土学舎では、日本の事務局業務とフエ市での活動全般のコーディネーションを担当しています。