シリーズ~祈りと暮らし~②お祈りの日のお供え(ベトナム)
日本は新型コロナウイルス感染拡大に係る緊急事態宣言の期間が延長されそうですが、ベトナムは一足先に条件が付きながらも外出自粛が解かれました。学習支援教室も感染予防策を講じながら、再開して行こうと思っています。来週にはクラスに通っている高校生たちの様子を写真でお届けしようと思っています。
さて、このシリーズの1回目はカトリック信者であるナショナルスタッフのティエンさんに記事を書いてもらいました(「ラバンのマリア様」)。今回は、仏教に関係しているお祈りとお供えの思い出を書きたいと思います。
風人土(かぜひとつち)学舎の活動地であるフエ市は、古都であるためベトナムの風習や習慣が他の町より尊重されていると言えます。ベトナムでは表向きには太陽暦が用いられていますが、暮らしの中の多くのことは陰暦に従って動いています。新月の日と満月の日は特別な日で精進料理を食べ、仏壇や家の外に出したテーブルにお線香、果物やおかゆや米菓子などの食べ物、お花、紙細工などのをお供えします。このお供えの準備は、個人の家だけで行われるわけではありません。お店や会社などでも神様への感謝や商売繁盛のため、同じようにお供えが準備されます。
お供えの中にあるおかゆや米菓子はお祈りが済んだ後、地面に撒かれます。これは、看取られることもなく亡くなってしまった人やお祀りしてくれる家族もなく亡くなった人たちも、どうか心安らかに成仏してくださいという願いを込めての行為であると聞いています。また、紙細工はお金や靴を模っています。亡くなった人が天国でお金や靴に困らないようにと、お祈りが済んだあと火を点けて天まで届けと燃やします。
この毎月2回のお祈りのお供えが、年末になると盛大なものになります。写真は、風人土学舎の代表である田中先生がプロジェクトマネージャー、私が現地業務調整員を勤めたJICA草の根技術協力事業のプロジェクトオフィスで準備した年末のお供えの様子です。私たちのオフィスはフエ農林大学(以下、農林大学)という公立大学の敷地内にありました。日本であれば公立の学校に神棚があったり、福禄寿様や大黒様がお祀りされていることは少ないように思います。しかし、フエ市では公立の学校の中にあるオフィスでも小さな祭壇を目にすることは少なくありませんでした。実際に私たちのオフィスにも小さな祭壇を置いて、新月と満月の日にお祈りをしていました。真ん中に子豚の丸焼きがお供えられているのがわかりますか。お祈りが終わった後は、この子豚の丸焼きや他のお供えものをお下がりとしてみんなでありがたく頂戴する忘年会を行いました。
1つだけ農林大学の敷地内で行われるお祈りには特別な意味がありました。1975年に終わったベトナム戦争当時、農林大学の敷地にはお寺がありました。そのお寺がアメリカ軍に攻撃された際、多くの僧侶が井戸に身を投げたそうです。戦後、お寺の敷地は大学に譲渡され、井戸は閉じられました。その閉じられた井戸は、私たちのオフィスの前に生えていた菩提樹の根元にあったとのことでした。僧侶たちのご冥福を祈るため、菩提樹の根元でもお線香を炊き、おかゆを撒くことも必ず行っていました。
ちなみに、菩提樹の下でお線香を炊く行為は、木に宿る精霊のような存在への感謝という意味でフエ市内ではよく見かけられる行為の1つです。そのため、もしフエ市に新月や満月の日にお越し頂ける機会があれば、菩提樹の下で祈っている人の姿を見かけられるかもしれません。
来週は、お供えに使われる紙細工のことについて書きたいと思います。紙細工を折る仕事が貧困層の人たちの大切な仕事になっている、というお話です。
投稿者プロフィール
- ベトナムのフエ市在住歴延べ6年。風人土学舎では、日本の事務局業務とフエ市での活動全般のコーディネーションを担当しています。
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