ぼくにとってのブルキナファソ三部作 第2回 清水貴夫『ブルキナファソを喰う!』

ブルキナ2

 

「ぼくにとってのブルキナファソ三部作」の第一冊目は『ブルキナファソを喰う!』である。これは、清水貴夫が2019年に書いた本だ。「アフリカ人類学者の西アフリカ「食」のガイド・ブック」というサブタイトルがついている。ブルキナファソを食から見た本だ。清水は、文化人類学専攻で、ブルキナファソに十数年通うブルキナファソの研究者だ。もともとは、ストリートチルドレンの研究をしていたが、都市部以外に通ううちに、地域の伝統薬草栽培や、伝統的集落の在り方、それを生かした地域づくりなどにも興味を持って行った幅広い関心の持ち主だが、この本では、ブルキナファソの食について語っている。

 

ブルキナファソの食とは何か。いや、そもそも、西アフリカの食の特徴とは何か。アフリカの食になじみのない人にとっては、雲をつかむような話だが、この本を読んでいくと、意外なことに、アフリカには米もあるし、味の好みもどうやら日本人に合いそうな感じなのだ。

 

もちもちや、ねばねばが好きな人びとらしいことがわかってくる。欧米人は、もちもちやねばねばが嫌いで、海外のお土産に餅や団子を持って行っても、イギリス人もアメリカ人もまったく喜ばないが、アジアでは、餅や団子はごく普通だ。それは、この本を読むと、どうやら、アフリカでも同じらしい。

 

本書には、ブルキナファソの主食の一つに、「練り粥」というのがあると書かれている。現地語で「ト」という。この、練り粥は、日本で言うと、「そばがき」のような感じに見える。粉ものを、水で練って、もちもちした状態にして、加熱して食べる食べ物だ。ぼくはういろうが大好きなので、この本を読んで「ト」が出てくると、ういろうが食べたくなって困る。

 

また、オクラ汁や、ねばねばが葉っぱから出てくる食材のスープもごく普通に食べられているようだ。コメの中にスパゲッティを混ぜこんだ「炊き込みご飯」というようなものもあるらしい。これなども、焼きそばの中に焼きめしを入れるという「そばめし」を彷彿とさせる。

 

この本は、そんなブルキナファソの食を、文化人類学者の目から、詳細に解説した書。といっても、清水自身が食べることが大好きな人なので、まず、大事なのは、味である。おいしいことが第一。だから、この本は本当においしそうなものばかりが書かれていて、まさに、グルメガイドである。

 

じつはこの本の刊行はぼくがプロデュースした。ぼくが、シリーズエディターとしてかかわる、あいり出版という京都の出版社の「地球のナラティブ」という本のシリーズの第一弾だ。出版社との話し合いでは、シリーズの第一弾は、シリーズの行方を占う大切な本だと言われ、清水には、かなりのプレッシャーもあったみたいだ。しかし、清水は、それに見事にこたえ、この本は、刊行後、たくさんの書評に恵まれ、マスコミからの取材も相次いだ。

 

組版デザインの上瀬奈緒子(綴水社)と装丁の和出伸一(象灯舎)によって、手に取ってとても魅力的なつくりの本になったことも大きかったと思う。それに加えて、清水と親交のある、ウスビ・サコ(前・京都精華大学学長)と高野秀行(ノンフィクション作家)というふたりの人気の書き手からのオビの推薦文もそれを後押ししたはずだ。

 

ぼくが、清水にこの本を書くことを持ちかけたのは、清水のブログを読んでいたからだった。清水のブログには、ブルキナファソの様々な姿が書かれていた。それは、あの、川田の書くブルキナファソの姿とはずいぶんと違った。川田の本では書かれていなかったいろいろなことが書かれていた。川田の本が、ブルキナファソを遠く離れた異国のこととして書いているようだとしたら、清水のブログは、なんというか、ごくそこにあるどこかとして書かれているような気がしたのだ。そんなブルキナファソの姿は、まだ日本では活字になっていない。だったら、このことは、日本の読者に伝えた方がよいのではないか、伝えるべきだ、とぼくは強く思い、そうして、清水に、ブログをまとめてみることを提案したのだ。

 

川田の『無文字社会の歴史』を読んでいたころは、ブルキナファソのことは、ずいぶんと遠い世界のことのように思っていたが、この本を編集したことで、それがなんだかちょっと近づいたような気がする。とれにくわえて、それが、本の一つとして出版されたことで、ぼく自身も、ブルキナファソをめぐる本の世界の中に入り込んでしまったような不思議な感覚を覚えることになった。単に読むだけの世界だったのが、自分もそこにどこか足を踏み入れているような感じとでも言おうか。そうして、この清水の本をきっかけとして、その感じは、さらなる本を呼び込むことになる。

 

(つづく)

 

清水貴夫『ブルキナファソを喰う!――アフリカ人類学者の西アフリカ「食」のガイドブック』シリーズ・地球のナラティブ、(あいり出版、2019年)

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風人土学舎 日本事務局
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