Team Hue~ベトナム・フエから高校生が発信します~④

Team Hueは、風人土(かぜひとつち)学舎の日本事務局・高木とベトナム事務局・ティエンさん、活動に関わる仲間たちで作っているグループです。6月4日の記事に続き、私たちがフエ市で行っている学習支援教室に通う高校生が撮った写真(もしくは写っている写真)を使って彼らの暮らしを紹介したいと思います。

今回は、こちらの写真。

キャプション「この狭い廊下は私の家に続く通路です。このアパートに住んでいる人たちの多くは、昼間はこの町の中心部にある卸し市場で出て働いています。このアパートは、ただ寝るための場所になっています。「家庭」(家族のいる場所)と思って、綺麗に大事に守って欲しいです。」

 

少し説明を加えたいと思います。この写真に写っているのは、私たちの活動地であるフーハウ地区にある団地の廊下です。写真の左側に並ぶドアの横や上に、棚があるのがわかります。これは神棚のようなものです。お線香を炊いたり、仏様や崇拝している神様を模ったものを飾ったりしています。床にはスリッパが脱がれているのがわかります。ベトナムのお家には、日本のような靴を脱ぐ場所がありません。なので、こんな感じでお家の前に靴が脱がれているのを見かけることは多いです。写真の右側の手すりには、洋服がかけられています。おそらく、洗濯したあとのお洋服かと思います。

洪水の後、フエ市

フエ市の中心を流れるフォーン河の支流にたくさんの水上生活者の舟が浮かんでいた頃の様子。市内全域が冠水した洪水の水が引いた後に撮影した。洪水になると比較的安全な場所に舟を移動させていたが、舟の転覆や舟から投げ出されるなどして命を落とす人たちも少なくなかった(2007年10月撮影)。

この団地に暮らしているのは、元水上生活者の家族たちです。水上生活者を陸に定住させることは、行政機関であるフエ市の願いであり、水上生活者たち自身も望んでいたことでした。行政側は、景観や衛生環境への配慮、水上生活者たちの命を守る必要性などの多くの理由から水上生活者を陸に上げることを願っていました。水上生活者自身も、陸での日銭稼ぎの仕事に就いている人がほとんどの状況で安全な陸での暮らしを望んでいました。漁業や砂利採取といった舟で暮らしている方が便利が良い仕事に就いている水上生活者はほんのわずかだったのです。

2009年6月、大規模な水上生活者の再定住政策が実施されました。フエ市は、基本1世帯につき団地の1室を割り当てていきました。部屋の代金は要りませんでしたが、家財道具はすべて揃える必要がありました。また、割り当てられた部屋は何もない長方形のスぺースで、台所を作ったり、部屋の仕切りを作ったりといったことも自費で行う必要がありました。

フーハウ団地、フエ市

フエ市にあるフーハウ団地の朝の様子。右側が団地で、左側が私たちが教室をかりている小学校(2013年5月撮影)。

この初期費用を工面ができる蓄えがなかった世帯は、借金をして家の中を整えていくことになりました。銀行から借金できる人などいません。高利貸しからの借金でした。借金の担保にするのは、シクロと呼ばれる自転車タクシーや市場の中にかりている商売のためのスペースでした。

お金が返せなかったら、仕事を失う

という重い選択をした人たちがたくさんいました。たぶん、将来「重い選択」になるとは思っていなかったと思いますが。

再定住政策実施から1,2年経つと、ベトナム南部の工場地帯やラオスに出稼ぎに行く人たちの話をよく聞くようになりました。一家ごと引っ越してしまう人たちもいれば、老人と子どもたちを置いて働きざかりの大人だけがお金を稼ぎに行くというケースも多いように思いました。家族がバラバラに暮らさなければならないようになったのです。

そうして、希望を持って引っ越したはずの団地の姿は少しずつ変わっていきました。団地の中の棟によっては、廊下や階段にタバコの吸い殻やごみが散乱している時もあります。ビール瓶が転がっていることもあります。この写真を撮ってくれた高校生がそんな団地の共有部分の階段や廊下をもくもくと掃除している姿を目にした時、私はすごく安心しました。「自分の家を清潔できれいに保とう」とすることは、基本だと思うのです。彼にはそれが身についていることに安心しました。

この高校生の両親は、ベトナム南部の工場地帯で働いています。両親に続いて二人いる姉のうち一人の家族も南部に引っ越していきました。今、この高校生は一人で団地の一室で暮らしています。一人暮らしになってもぶれることなく、家や廊下をきれいに保っていたいと思い、実際にそうしている彼を私は誇りに思います。

1日も早く家族みんなで暮らせる日が来ることを心の底から願っています。

投稿者プロフィール

Team Hue
チーム フエは、ベトナム中部のフエ市在住歴約6年の高木佳子とフエ市生まれのフィン・ティ・トゥイ・ティエン、そしてフエで暮らす高校生や大学生たちで構成されています。フエ市のことやベトナム人の暮らしの様子を写真や動画を添えて発信していきます。ご質問や「こんなことが知りたい!」というリクエストも受け付けております。