それは本当にインターシップなのか?

ナショナルスタッフのティエンさんからは、色々な現地情報をメールやSNSのチャットで送ってもらっています。昨日、ティエンさんから「フエ農林大学の学生向けインターンシッププログラムに関係したトラブルが発生して日本の弁護士さんが解決に来たようです」というチャットをもらいました。フエ農林大学は、私がJICA草の根技術協力事業の案件で常駐していた大学です。気になったので、ティエンさんとどんなことがあったのか調べてみました。検索できたのは、「(世界発2021)インターンという名の労働力? ベトナムの大学生、次々日本へ」(朝日新聞デジタル、2021年12月15日)という記事でした。以下、記事から引用します。

「プログラムは大学と日本企業を仲介するハノイの業者が取り仕切っていて、手数料は3千ドル(約34万円)。面接などを経て合格した後、半額の約17万円を手続きのための手付金として業者に支払った。チンさんが会社と交わした契約書によると、工場では週約40時間の勤務で、時給は昨年時点の最低賃金の849円。1カ月の手取りは約10万円を得られる計算だった。『学費を自分で稼ぎたい』。インターンに応募したのは、1人で姉と自分を育ててくれた母親を経済的に助けたい気持ちもあった」。

とあります。引用の中のチンさんというのがフエ農林大学の4年生の学生です。記事には、コロナ禍で日本への渡航が延期になりプログラムへの参加を取りやめたいと申し出たにも関わらず、支払った手付金の返金には応じてもらえなったそうです。そして、以下のように記事は続きます。

「さらに業者からは、チンさんの不参加のせいで一緒に行く予定の残りの学生13人の受け入れが日本側から断られた場合、損害賠償を請求するという文書が届いた。大学の対応も鈍く、渡航予定の時期から1年半近くになる今もトラブルは解決していない」。

このトラブルの解決のために日本から弁護士さんがフエに来た様子です。

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本当にこのプログラムは「インターンシップ」と呼べるものだったのでしょうか?本気で大学が国の将来を担っていく学生のことを思ってこのプログラムを組み立てたのでしょうか?日本の企業もベトナムの未来を担う若者を預かる心づもりがあったのでしょうか?ハノイの業者は、お金儲けのことしか考えていなかったように思います。そして、悲しいことではありますが、ベトナム人の学生には本当にこのプログラムは信用できるのか?リスクはないのか?考える力を身に付ける必要があるように感じます。自分の学んでいる大学の先生の言うことであれば信じてしまうことでしょう。難しいことです。

記事の中にあるチンさんは、家族を助けたい気持ちもあってこのプログラムへの参加を決めたと語っています。渡航に必要な17万円を借金で賄っているかもしれません。「日本に行こう」とさえ思わなければ、負わずに済んだ借金です。もし高利貸しから借りていたとすると、いくらになっているのかわからないのです。

フエ市の経済的に課題を抱えている人たちと接してきて、17万円という金額の大きさを思わずにはいられません。2,3万円のお金がなくて市場の売り場を手放した人がいました。1,2万円の賭け事での負けで仕事道具を売り払い、子どもを遠くの工場に働きに行かせた人がいました。この記事にあるチンさんのお家はそこまでではないことを願っています。

そして、ティエンさんとは私たちが知っている学生には、こんな思いをさせないようにしようと話しています。

投稿者プロフィール

高木佳子(Takagi Yoshiko)
高木佳子(Takagi Yoshiko)風人土学舎 日本事務局担当
ベトナムのフエ市在住歴延べ6年。風人土学舎では、日本の事務局業務とフエ市での活動全般のコーディネーションを担当しています。