活動で「お金を渡すこと」について

フエ市、水上生活者の少女たちと

ベトナム中部・フエ市で行っている教育環境改善プロジェクトでは、経済的に困難さを抱えた家庭の子どもたちと関わることが多いです。活動の中で、子どもたちにそれが例え奨学金であったとしても「お金を渡す」ということはしていません。信頼関係が出来ていると確信しあっている子どもの保護者に奨学金を渡したことはありますし、直接学校に子どもたちが支払わないといけないお金を支払ったこともあります。お金の扱いに注意を払っているのは、子どもにお金を渡したことで、結果、きっとその子が嫌な思いをしたであろう経験があるからです。

*****

当時、私は青年海外協力隊員で、1年上の先輩隊員から子どもたちに渡す奨学金を預かったことがありました。その先輩隊員が任期を終えて帰国する際に託されたものでした。先輩隊員の活動は、水上生活者の子どもたちにアクセサリー作りを教えることで、アクセサリーの売り上げから子どもたちの工賃と希望する子には学費が支払われていました。先輩隊員の後任は日本から来ることなく、アクセサリー作りをしていた子どもたちには親もいるし、かなり貧しくても餓えているわけでもない、何よりベトナム人でこの活動を運営したい人を見つけることが出来ませんでした。そのため、先輩隊員の帰国と共にアクセサリー作りの活動は閉めることとなりました。

活動は閉めればいいのですが、アクセサリーを売ったお金が残りました。それを均等分して、子どもたちに奨学金として渡すこととしたのです。正確には、数名の子たちは学校に行っていませんでしたが、そもそも子どもたちが作ったものから得たお金であったので均等分したのでした。ベトナムの新学年は9月に始まります。そのため、子どもたちには新学年が始まる前の学費支払日の頃に私の家までお金を取りに来てもらうこととしました。先輩の帰国時に渡さなかったのは、早く渡してしまうと親たちが別のことにお金を使ってしまう可能性があるからでした。

先輩隊員とは間違いがないように、きちんとお札の数を数えて一人一人別々の封筒にまっすぐにしたお札を入れました。そして、子どもたちに渡す際にもしっかりと確認をしてもらいました。

すべての子どもたちに奨学金の引き渡しが終わった夜に、一人の子が私の家に訪ねてきました。

 

「昼間もらった奨学金にニセ札が混じっていたから、ちゃんとしたお金を換えてください」

 

と言ってきたのでした。

 

ベトナムのお札

向かって左側がプラスチック紙幣やポリマー紙幣と呼ばれるベトナムのお札。右下の2枚は紙の紙幣
。どのお札に建国の父、ホーチミン氏が印刷されている。

 

彼女が私に差し出したお札は、確かにニセ札で折り癖がしっかりついたものでした。べトナムに行かれたことがある方であれば、ベトナムの紙幣をご存知だと思います。プラスチック紙幣、ポリマー紙幣と呼ばれる合成樹脂を使用した紙幣です。折り癖がつきずらく、独特のツルツルとした手触りのお札です。私が子どもたちに渡した封筒に入っていたお札はすべて折られていなかったものでした。また、先輩隊員と封入作業をした時、子どもたち一人一人に渡す時に気づかないとは思えないくらいに、いかにもニセ札なお札を差し出されたのでした。

 

ニセ札を私に差し出したままのその子は、下を向いたまま私と目を合わそうともしませんでした。

 

「ごめんね、お札、交換するね」

 

と、彼女に告げてニセ札を受け取り、きちんとしたお札と交換しました。

きっと親がどこかでつかまされたニセ札だったのだと思ってます。親が「ちょうどいい、ニセ札が混じっていたと言ってきなさい」と言ったのだと思っています。

子どもたちは、どんなことがあっても親のことを慕っています。そのことを忘れないで活動をする必要があること、特にお金に関してはお互いがいやな思いをしなでいいようにすることを活動の計画する時にはいつも考えるようにしています。

 

☆☆ 文章と写真の著作権は、風人土学舎に属します。無断での転用はご遠慮ください。☆☆

投稿者プロフィール

高木佳子(Takagi Yoshiko)
高木佳子(Takagi Yoshiko)風人土学舎 日本事務局担当
ベトナムのフエ市在住歴延べ6年。風人土学舎では、日本の事務局業務とフエ市での活動全般のコーディネーションを担当しています。