お墓のまえで(2)
フエ市近郊の海岸に「お墓の村」と呼ばれるアンバン集落があります。
そこには大きくきらびやかなお墓が並んでいます。タイルや陶磁器の破片を張り付けたそれらは熱帯の陽光を受け、賑やかな雰囲気を漂わせています。
ボートピープルあるいはインドシナ難民という言葉を覚えているでしょうか。1970年中盤から1980年代に、さまざまな理由による迫害や資産の没収、経済的困窮から逃れようと小さな舟に乗り国外に漕ぎ出した人びとのことです。アンバン集落からも、お墓の数から考えると、多くの人びとがあてのない海に漕ぎ出したようです。
航行している船舶に運よく救助された人びとは、香港やマカオなどの難民収容所に送られ、その後、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどに渡りました。異国での相当な苦労の末、経済的に余裕ができた人びとが集落に残った家族にお金を送り、それでお墓が建てられたといいます。
何故このような豪華なものになったのかについては、望郷の念やご先祖さまへの信仰あるいは見栄なのか、いろいろな説があるようですが、人が人を想う気持ちは一緒です。
「お墓の村」を歩くと立派なお墓の間に、石やコンクリートで囲まれただけの埋葬地があることに気付きます。それは、集落に残された家族のものかも知れません。海に漕ぎ出し消息不明になった人びとからの便りを何年も心待ちにしたのだろうね。
きらびやかなお墓の間にある、弔いに訪れる者もいない寂しい佇まい。そこに哀しい想いが漂っているのを知る感性の足りなさを自省しつつ、それでもしばし足を止めました。
☆この記事は、風人土学舎のFacebookに2019年8月16日に掲載したもののリライトです。記事の中の写真は、風人土学舎のメンバーによって撮影されたものです。
投稿者プロフィール
- 風人土学舎代表。摂南大学 農学部 食農ビジネス学科 教授(環境農学研究室)、ベトナム・フエ大学名誉教授。専門は、環境農学、土壌学、地域開発論。アフリカやアジアの在来知に学び、人びとの暮らしと資源・生態環境の保全が両立するような技術や生業を創り出す研究に取り組んでいます。
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