アカシアと庭先で行う養蜂

ベトナムの森と日本の関係

今やベトナムの少数民族の暮らしと日本人の暮らしは密接に関係しています。そう言われると、「はぁ?」と思われるかも知れません。日本が2018年に輸入した広葉樹パルプ材(チップ)は10,189千BDt(BD=絶乾重量)。そのうちの31.4%はベトナムからの輸入です(日本製紙連合会, 2018)。

広葉樹パルプ材のほとんどはアカシアです。この木の特徴は、植えてから短期で伐採できること。3から5年の間に切り出したアカシアを村人は仲買人に売り、仲買人はアカシア・チップの製造工場に運んでいきます。少数民族の集落では、政府から割り当てられた土地にアカシアを植える人が多くなりました。これだけだと、数年に1度の収入しかもたらさないために、ゴムノキやキャッサバといったものと組み合わせて植えられています。

アカシア 造成地が広がる

アカシア造成地が広がるフエ省の山間地(2016年11月撮影)。

ゴムはゴム製品の、キャッサバはでんぷんの材料になりますので、どの樹木・植物も日本の生活に欠かせないものです。ゴム、キャッサバ、アカシアすべてに共通するのは、お金に換えることができる換金作物であること。一方で、多くが輸出にまわされるため買取り価格の変動が大きくなっています。

アカシアを運ぶ、フエ省

アカシアをチップにする工場は樹皮は買い取ってくれないため、樹皮を剥いだ後トラックに積まれる。アカシアの伐採は村人に日銭を稼げる仕事となている一方、雇う側は平野のキン族であるため山の民である少数民族は安価で働かされるケースもある(2011年7月撮影)。

アカシア造成林と養蜂

アカシア造成林の特徴の1つに、殺虫剤がほとんど使われないことが挙げられます。ベトナムで養蜂が盛んなのは、北部や中部高原、メコンデルタといった果樹園がある場所です。しかし、果樹園に散布される殺虫剤でミツバチを大量に失ってしまうことや、農薬や殺虫剤がハチミツに混入して輸出できなくなるようなことも起こっています。そのような状況の中、2009年頃からフエ省の山間地に広がるアカシア造成林に蜂蜜会社の養蜂家たちが来るようになりました。養蜂家たちは2月頃から8月頃まで養蜂箱をアカシア造成林に設置してハチミツを採取し、季節が過ぎると次の場所に移動していきます。

アカシア造成林、養蜂、フエ省

養蜂会社の養蜂箱は100個以上がトレーラーで運ばれて来る。養蜂家は野営して養蜂箱を守る。アカシア林の所有者に土地の使用料が支払われている(2011年5月撮影)。

庭先で行える養蜂

養蜂会社の行う養蜂は、花を求めて移動するお金のかかる養蜂です。しかし、アカシア造成林の広がるフエ省の丘陵地には、移動することなく裏庭に養蜂箱をおいて行う養蜂を生業(なりわい)としている篤農家がいます。養蜂は、土を壊さず、森と水を育みます。そして、この篤農家と養蜂について話をする時によく出てくる言葉が、「ミツバチの世話は楽しい」というものです。

アカシア林が近くにある庭先での養蜂、フエ省

裏庭に置かれた養蜂箱を使って養蜂の技術についてプロジェクトスタッフに説明する篤農家。彼の家の裏はアカシア林になっている(2011年11月撮影)。

風人土学舎の代表である田中先生がプロジェクト・マネージャーを務めたJICA草の根技術協力事業(パートナー型)ベトナム中部・自然災害常襲地のコミュニティと災害弱者層への総合的支援(2010年10月~2013年9月、実施団体:京都大学大学院地球環境学堂)では、この篤農家に指導役をお願いし、少数民族の集落で庭先で行える小規模の養蜂をトライアルとして実施しました。このトライアルに参加した一人の青年は、いまでも養蜂を細々と続けています。彼も「ミツバチを見ているのは楽しい」と語ってくれます。

庭先での養蜂、フエ省、少数民族

JICAの養蜂トライアルに参加した少数民族の青年が、軒先に置いた養蜂箱から採蜜している様子。彼は「ミツバチはかわいい」と言い、家の軒先で養蜂を続けている。彼の暮らす集落にはアカシア造成林が多い(2016年9月撮影)。

ミツロウも現金収入をもたらす

養蜂はハチミツが売れるだけでなく、蜜を採取したあとの蜂の巣を精製して出来るミツロウも売ることが出来ます。フエ省で見かける養蜂家たちは、精製した後のミツロウをハチミツ会社に売っている人が多い様子です。ミツロウはロウソクにしたり、化粧品の材料とすることも出来ます。村人がミツロウの加工できれば、それを売ることでもう少し多くの現金を得られることが出来るようになるかもしれません。

ミツロウ、フエ省

ミツバチは蝋分泌腺から蝋を出して巣を作る。はじめは透明で、使用されるうちに花粉や幼虫の繭が付き色がついていく。写真は採蜜された後の巣。養蜂家たちはこういった巣を集めておいて、シーズンが終われる精製してミツロウにする(2011年5月撮影)。

近い将来、日本のみなさんにもベトナムのミツロウをお届けしたいと思っています。

 

 

[参考資料]
日本製紙連合会(2019年11月6日閲覧)
https://www.jpa.gr.jp/states/pulpwood/index.html