教育環境改善プロジェクト

私たちは、ベトナム中部のフエ市フーハウ地区で「教育の力で貧困の連鎖を断ち切りたい」という思いで活動を行っています。

(撮影:暮らしのモンタージュ

 

●貧困の連鎖と教育環境

風人土学舎が活動地としているフエ省フエ市にはには幾つかの貧困地区があります。貧困家庭では、大人が日々の暮らしに追われ、時として、こどもたちに十分な教育の機会を与えることができずにいます。親たちが労働災害や病気で亡くなったり、遠く離れた都市への出稼ぎにでているため、祖父母に預けられて暮らすこどもたちもいます。また、貧困がはびこるコミュニティでは、荒んだ雰囲気が漂い、こどもたちが落ち着いて勉強できない環境にあります。

教育を受ける機会や金銭的な支援や励ましのなかったこどもたちのなかには、安定した職業に就けないケースが多く見られます。それが、「貧困の連鎖」につながっています。

●活動地:フエ市フーハウ地区

風人土学舎が地区の教育環境改善のために活動しているのは、フエ市フーハウ地区です。この地区には、都市開発や自然災害への対策のために行政が進める移住を余儀なくされた人たちが多く住んでいます。そのなかには、サンパンという小舟で暮らしていた水上生活者や世界遺産の城壁で暮らしていた人たちが含まれます。彼らはもともと、フエ市の中でも貧しい人たちでした。

フエ市、シクロと水上生活者の舟

シクロと呼ばれる自転車タクシーは、フエ市の人とモノの重要な輸送手段だった。しかし、近年、バイクと車にその立場は奪われ出している(2009年1月)。

彼らの多くは、サンパンを住居としてシクロと呼ばれる自転車タクシーの運転手や自分で作った軽食や茹でたピーナッツなどを売り歩く日銭稼ぎの仕事をしていました。

フエ市、天秤棒で軽食を売り歩く

元水上生活者に限らず、天秤棒で軽食や果物などを売り歩くのは女性の仕事。スーパーが増えて買い物の仕方が変化してきたことや行政が路上を不法に使うことを取り締まり出したことから急速に姿を消している(2009年1月撮影)。

フエ市は移住政策実施にあたり、移住者に自己資金で家を建てるための土地や家族で暮らせる広さの団地の1室を準備しました。しかしながら、彼らの生業(なりわい)まで面倒をみることはありませんでした。そのため、働いていた場所から遠く離れてしまい、生業を失った人も少なくありません。生業を失った人たちの中には、フーハウ地区にある卸売市場で日銭稼ぎの仕事をしている人たちもいます。市場の敷地内で店を開くには費用がかかるため、敷地の外で商売をするのです。

フエ市フーハウ地区

フエ市フーハウ地区のある第一市場の前を走る幹線道路脇には、市場で商売をするためのお金を準備出来ない人が持ち寄ったものを売っている。行政は市場内よりもかなり安価な場所代を徴収するようにして、清掃活動費などに充てている(2016年9月撮影)。

このように、経済発展を続けるベトナム社会にあって、貧富の格差の拡大や貧困の固定化が懸念されています。

●主な活動

・学習支援教室(2011年~)

2011年から子どもたちが安心して学べる場と機会をつくるための学習支援教室を始めました。その内容は、主に「学校で学ぶ教科の復習」です。また、ベトナムでは先生は尊敬の対象であり、子どもによっては学校の先生と距離を感じている場合もあります。そのため、子どもたちがリラックスして学習できるように学習支援に関心のある複数の大学生に先生役を担ってもらっています(私たちは彼らのことをチューターと呼んでいます)。その仕事は、学習支援教室で勉強を教えるだけではなく、子どもたちに学習習慣が身につくような工夫、学習の進捗状況のチューター間での共有なども含みます。子どもたちだけではなく、チューターとなった大学生らも成長したように感じます。

フエ市、学習支援、子どもの家で

学習支援教室をはじめた頃の様子。チューターたちは一人1教科を担当し、毎日誰か一人が授業をするために子どもたちの待つ家に通っていました。時には、全員でお菓子を食べながら歌ったり、遊んだりもして子どもたちに人との接し方も教える結果となった(2011年9月撮影)。

2011年から教室を運営している中で、地域の様子や変化も分かってくるようになりました。地域に暮らす子どもたちの状況に合わせた教室運営を行っています。学習支援クラスの変遷は、こちらからご覧ください

 

・日本の大学生との交流会(2014年~)

学習支援教室のチューターや子どもたちと日本の大学生との交流会を年に1回実施しています。
※2020年3月以降、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて渡航を伴う交流会の開催は行っておりません。自由に渡航出来る環境が1日も早く戻ってくることを願っています。

日越大学生交流、フエ市

2014年から京都大学の教養課程の国際交流科目の研修旅行の受け入れを行っています。学習支援教室のチューター(ベトナム人大学生)と日本人大学の意見交換の様子(2015年8月撮影)。

 

・青空図書館への支援(2017年~2021年)

子どもたちに読書の楽しみを知らせたいという思いで、フーハウ小学校の先生たちはベトナム語で「緑の図書館」と名付けた活動を自発的に始めました。この活動では、子どもたちが本を気軽に手に取れるように休み時間の間、図書館にある本を中庭に設置した本棚に移動させます。いわば、「青空図書館」です。子どもたちは、楽し気に本を読んでいます。しかしながら、書籍の数が十分ではないために、貸出まではすることが出来ません。そこで、私たちは先生方と相談して、子どもたちにふさわしい本をリストアップし、65冊をフーハウ小学校の図書館に寄贈しました。読書習慣の定着のためにも、これからも本の寄付を続けていきたいと考えています。また、先生方と協力して、本の読み聞かせなどの活動が出来ないかも検討しています。(ここからは2022年5月4日加筆)本を寄贈することで「本をいかに管理するか・いかに子どもたちに読んでもらえるか」という課題が出来てきました。ベトナムの学校にある図書館は授業のある時間帯にしか開いていません。また図書館に関わる先生や司書さんたちも本を保管管理するだけで手いっぱいで、蔵書が増えても「青空図書館」より他に何か負担が増えることを実施することは難しいことがわかりました。そのため、2021年を最後に、フーハウ小学校への本の寄贈は終えることにしました。もう少し他の方法で、子どもたちが本に親しめる方法を検討、実施することにしました。
☆活動の進捗☆
●2020年9月、115冊の本をフーハウ小学校に寄贈しました(詳しくは、「【活動報告】「ミツロウキャンドル こどもたちの未来」プロジェクトから本を寄贈しました(ベトナム・フエ市)」をお読み頂けるとうれしいです)。

青空図書館の様子、フエ市フーハウ小学校

ベトナム語で「緑の図書館」と名付けられた「青空図書館」は、フエ市立フーハウ小学校の若い先生たちが始めた活動。子どもたちは本を手に取ることを楽しみにしている。十分な数の書籍がないことが課題(2017年3月撮影)。

[更新記録]

●2022年05月04日 「青空都市間への支援」に活動の状況を加筆しました。

●2021年05月03日 以下の点を更新しました。
①「日本の大学生との交流会」に2020年3月以降、新型コロナウイルス感染症拡大を受けての現状を加筆しました。
②「青空図書館への支援」に活動の進捗を加筆しました。

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